歴史の風 3 〜平安時代の横笛〜
歴史の風 3
〜平安時代の横笛〜
市川橋遺跡は、多賀城跡の南側に広がる遺跡で、西側に隣接する山王遺跡まで広がる古代の地方都市が発見された遺跡です。平成14年の調査で、多賀城廃寺へと至る9世紀(西暦800年代)の道路側溝から、竹製の横笛が出土しました。通常、竹は長い年月とともに腐食し形が残ることがほとんど無いため、古代の出土資料としては全国で4例目、全体の形状がわかるものとしては唯一という貴重なものです。
古代の横笛は、東大寺の正倉院に伝わっているものが知られていますが、これと比べて発見された横笛は、装飾がまったく無い、素朴なものです。横笛は、ひとつの歌口(うたくち)(口をあてるところ)と6つの指孔(ゆびあな)(指を押さえて音程を変えるところ)があります。横笛の場合、この歌口と指孔の位置や、笛の長さや太さによって、出すことができる音階(おんかい)(音の高低によるならび。例えばドレミファソラシなど)が変わり、ひいては演奏できる曲も変わってしまいます。すなわち、横笛の形が曲を決定していることになり、全体の形がわかるこの横笛には、古代の音階が記されているともいえます。
そこで、音階の復元を試みることにしました。とはいえ、歌口の隣にある竹の節が腐食によって失われ、空洞になっているため、本物を吹いても音は出ません。代わりに、詳細な調査のもと復元品を製作し、各音階を測ることとしました。現在6つの指孔をもつ横笛は、高麗笛(こまふえ)や神楽笛(かぐらふえ)などがあり、これらと比べたところ神楽笛に極めて近いことがわかりました。
これまで、古代に横笛でどんな曲が演奏されていたのか、知る手がかりはほとんどありませんでしたが、この調査・分析から、神楽笛に似た音階を用いた曲が演奏されていたことがわかりました。
なお、同じ市川橋遺跡からは、8世紀(西暦700年代)終わりころの琴の部品も出土しており、古代の多賀城ではさまざまな楽器による演奏が行われていたようです。
現在、復元された横笛はさまざまなイベントで演奏されており、古代の音色にふれることができるほか、多賀城史遊館においては横笛をつくって音を奏でることもできます。