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歴史の風 83 ~藤樹地蔵~

歴史の風 83

~藤樹地蔵~

 留ケ谷の旧家、櫻井家の敷地内に堂宇(どうう)があり、石造の地蔵像が一体祀られています。

 この地蔵像は「藤樹地蔵(ふじきじぞう)」と呼ばれており、堂宇の前にはその名を彷彿(ほうふつ)とさせるように藤棚が設けられています。また、子どもの夜泣きに御利益(ごりやく)があることから、「夜泣き地蔵」とも呼ばれ、その霊験(れいげん)を聞きつけて遠方からも参拝者が多く訪れました。

 祈願(きがん)の際には、堂内に納められているオマクラ(お枕)や、前掛けを借りて願を掛け、祈願成就の際には借りたものに加え、もう一つ自分で作ったものを添えて返します。このような奉納物を借りて倍返しにする祈願とお礼の慣習は、近くでは留ケ谷の太子堂、高崎の太子堂、八幡の鎮守嶋(きじらしま)観音堂などでも見ることができました。

 堂内には、これらの奉納物の他に絵馬も多数残されており、現在32点が確認されています。馬や猫、蛇といった生きものが描かれているもの、鏡餅などの供物が描かれているものなどさまざまな絵柄があり、願主(がんしゅ)が絵馬に込めた願いがそれぞれに表れています。

 この中で奉納された年代が読み取れるものは20点で、明治期に奉納されたものが多く、最も古いものは文久2(1862)年の紀年銘が入ったものです。願主の住まいが記されているものもあり、留ケ谷のみならず、さまざまな地域からの参拝者があったことがうかがえます。

 祭日は旧暦4月24日ですが、現在はその前後で櫻井家の都合の良い日に行われています。当日は二流の幟(のぼり)を上げ、赤飯を炊き、精進料理や菓子を供えます。以前は親族を招いてお振舞いをし、にぎやかに行っていました。

 市内には多くの神仏が祀られていますが、中でも安産や子育ての御利益があるものが目立ちます。藤樹地蔵も、櫻井家の屋敷内から、地域の多くの子どもたちの成長を見守り、願いを聞き届けてきました。

 柔らかな頭巾や前掛けを身にまとい、穏やかな表情を見せる地蔵像は、子どもが無事に産まれ、健やかに育ってほしいと願う親の心が映し出されているようです。