歴史の風 109 〜暮らしに息づく物語〜
歴史の風 109
〜暮らしに息づく物語〜
南宮地域では、昭和初期に栽培解禁の祈祷が行われるまで、里芋と茶の栽培を忌避してきました。このしきたりは厳しく守られ、これらを作るためにわざわざ南宮の外に畑を借りて作る家もありました。
このしきたりが守られるようになった背景には、次のような話が伝わっています。
南宮神社には、色の御前という若い女神が祀られており、この女神に、山王の日吉神社で祀られているお山王様は密かに想いを寄せていました。
ある夏の夜、募る想いを抑えきれなくなったお山王様は、色の御前を訪ねてその胸の内を打ち明けますが、それを受け入れることができない色の御前はその真剣さが恐ろしくなり、その場からそっと逃げ出しました。
そのまま帰るわけにもいかないお山王様はその後を追いかけ、色の御前は、逃げる途中で里芋の葉で足を滑らせ、茶の茎で目を突き、やっとの思いで船形神社の別当にかくまわれて難を逃れたというものです。
この言い伝えから、南宮では色の御前に申し訳ないと、里芋と茶を作ることをやめたとされています。
また山王では、お山王様の恋の妨げになった船形神社は良くない方角として、男性が船形神社に行くことを避けるようになったということです。
この二柱の話は、単なる物語にとどまらず、禁忌として人々の暮らしに深く関わりながら語り継がれてきました。これらのしきたりからは、それぞれの地域で祀る神を大切にする、人々の信仰の深さを垣間見ることができます。
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